事業仕分け パブコメ

文科省のサイトで今回の事業仕分けに関するパブコメを募集している。

なので、自分もパブコメを送ってみた。ニコ動にアップされている議論を聞いていて、ポスドクに関する誤解?が気になったのでその辺を中心に送ってみた。もろに自分の名前が出ている所は削除。まあ、これだけの情報が出てれば私が誰だかわかる人は多いとは思うが。。あえて削除ww


以下は自分が送ったパブコメ(上記の通り一部改変)

文部科学省 副大臣 中川正春様、政務官 後藤斎


私は現在スイスのZurich大学 実験経済研究所でポスドクとして神経経済学を研究している者です。


事業仕分けの若手研究育成に関してコメントさせて頂きたくメールをさせていただきました。討論内容がニコニコ動画にアップロードされていたので、そこでの討論内容を踏まえてコメントさせていただきます。


1)ポスドクに関して
まず、討論においてポスドク=悪、常勤研究者になれないダメ研究者と言うような前提で議論されている事に違和感を持ちました。
研究者としての適正が無い人がポスドクとしていつまでもアカデミアに残っているのがポスドク問題ですが、本来のポスドクと言うのはもっと違う役割を持っています。(ポスドク問題に関して今回はコメントいたしません)

学問が専門化・細分化された現代において、大学院で学べる範囲と言うのは極めて狭く、博士号取得をもって独立した研究者となるのは非常に難しく、また近年の領域間の融合により始まったような新しい学問領域で研究するためには、複数の領域をまたいで学ぶ必要があります。よって、領域Aで博士を取った人間が領域Bを学ぶ為にはポスドクとして領域Bの研究室に行かざるを得ません(当然領域Bでの経験が無い人間を常勤職として雇うところはありません)。このようなトレーニングの機会としてポスドクは必要な訳です。
海外のポスドク向けのグラントで日本も拠出している、Human Frontier Science Program(HFSP)のfellowshipの場合分野間を移動する事を強く推奨するだけでなく、異なる分野からライフサイエンス領域へ動く人だけを対象とした枠もあるぐらいです。また英国のWellcome trustでも分野を変える人向けのfellowshipがあります。
このような点からもポスドクと言うのは単に常勤職に就けない人と言うことでは無く、様々な経験を積む為の必須のプロセスなのです。

また、この観点からも学術振興会のPDの場合は数年前に所属研究室に残る場合は特別な理由書を提出しないといけないことになりましたが、
これをさらに進め

  • 所属研究室に残る場合は受け付けない
  • 分野を変える人間を積極的に採用する

ように変えていくのが望ましいと思います。


小生を具体例として挙げますと、学部卒業後、大学院に進学し分子生物学を学び博士号を取得した後、ポスドクとして認知神経科学(心理学にかなり近い分野です)に大きく分野を変えました。その時は21世紀COEのポスドクとして2年間サポートを受けた後、その研究室で2年間助教として勤務しました。そして今年の4月より、認知神経科学と経済学が融合した「神経経済学」と言う分野へさらに分野を変えて現在に至ります(Zurich大実験経済研究所)。

小生のような分野間の異動は日本では極めて珍しいですが、海外ではこのような分野間の異動は当然のように行われており、分野間の人の流動性が新しい学問を生み出し発展させて行きます。ポスドクのシステムが存在する意義を政策立案をされる政治家の方々にも、実務を行われる文部科学省の官僚の方々にもご理解いただき、さらに分野間流動性を高めるような制度に改革していただきたいと思います。



2)学術振興会 特別研究員DCに関して
優秀な大学院生をサポートする特別研究員DCに関してですが、COEプログラムが始まるまではこれがほぼ唯一の大学院生へのfellowshipでした。
海外では、大学院生の定員が少ないこともありますが、博士課程の大学院生と言うのはお金を払って進学するものではなく、給料をもらって学ぶのが当たり前です。これを補填する性格を持っていたのが特別研究員DCです。これをもらうことにより、そのお金から自学費を払い、社会保険料を支払い、生活費をカバーしていた大学院生が数多くいます。
また、COEプログラム(21世紀COE、グローバルCOE)ができて以降、COEの資金からTA(teaching assistant), RA(research assistant)として学生を雇用しお金を支払うシステムができましたが、その金額は6−12万程度であり、そこから学費を払って生活ができるのは、自宅から大学へ通学する人だけと言うのが現状です。
また、我々と同世代の研究者の友人で常勤職に就いている研究者で特別研究員DCもしくはPDを一度ももらった事が無い人は知りません。常勤職に就いている友人のうちの一部はこの制度が無かったら研究者の道には進まず、修士課程卒業後に就職していたと言う者もおります。すなわち、特別研究員が無くなったならば、日本のアカデミアの将来に壊滅的な打撃が加わると言うことを示唆していると思います。


しかしながら、特別研究員DCの研究費(特別研究員奨励費)に関しては削減しても構わないのでは無いかと思います。大学院生で完全に自立した研究など行える訳ではありませんし、極論を言えば、DCの場合は研究費0でも構わないと思います。PDに関しては自分の研究資金で国内外の学会に参加できる程度の研究費(50万程度か?)はあった方が良いかと思います。



3)若手の基準に関して
討論で40歳を過ぎた人間が若手なのか?と言う議論がありましたが、これは非常に同感であります。ただし、年齢で区切るのが正しいのかという点に関しては議論の余地があるかと思います。と言うのも、年齢が応募条件に出てくるのは日本ぐらいのもので、他の国では博士号取得後何年と言うのが一般的です。これを機に若手枠の応募条件を学位取得後何年という形式に変更するのが良いのでは無いかと思います。



今回の事業仕分けを契機として、日本の今後の発展の為にも、より効率の良い研究環境の構築の為に政策立案をしていただきたく存じます。


以上、競争的資金(若手研究育成)へのpublic commentをお送りさせて頂きます。