これからの科学・技術研究についての提言

事業仕分け以降、何らかの行動を起こさねばとぽつぽつと記事を書いてましたが、実は、その他にも神経科学者SNSと言う神経科学の研究者用のSNSで議論した事をベースに、神経科学の若手研究者を中心とした方々とGoogle waveにて提言を作っていました。ようやく、お披露目と相成りました。
提言はこちらでダウンロード出来ます。


神経科学者SNS「事業仕分けコミュニティ」による「これからの科学・技術研究についての提言」(総合科学技術会議宛)


神経科学者SNS「事業仕分けコミュニティ」による「これからの科学・技術研究についての提言」(要点のまとめ)


この提言がこれまで様々な学会から出されて来た提言と大幅に違うのは
「研究費減らすな」という趣旨では書いていません。
むしろ、現状のアカデミアにおける問題点を洗い出す事で未来につなげようと言うのが一番の目的です。さらに限られた分野の中ですが、神経科学者SNS内において170名以上の研究者からアンケートを取って、現場の生の意見を集めたのも特徴です。
提言の中では7項目になっていますが、大きく分けると

  1. 無駄を減らす
  2. 人材育成
  3. アカデミアの外との繋がり

と言う3点に集約できます。
ちゃんとした解説はVikingさんのブログにて、わかりやすくされているのでそちらを参照下さい。
で、以下は自分のかなり独断と偏見に基づく背景の解説です。


1.無駄を減らす
無駄を減らすのは言うまでもないです。研究業界も公共事業と同じなので予算は単年度制です。なので、年度末が近くなってお金が余ると、国庫に返す位ならば使い切ろうとなり、使うかどうかわからないものを買ってしまいがちです。
また、研究機器をもっとシェアしましょうと言うことも書いています。と言うのも、お金持ちな研究室では新しい物に買い換えた為に、まだ十分現役で使うことが出来るウン千万の顕微鏡が眠っていたりします。このような機器を有償なり無償なりで他へまわすだけでも、かなり研究費を節約する事が出来ます。
他にも、昨今の研究費不正使用防止策に関連して、とてつもなく煩雑化した事務手続きも取り上げています。例えば、前所属にいた頃、知り合いの研究室の秘書さんは一昨年に検品業務(研究室に注文した品がちゃんと納品されたかチェックする業務)のルール変更があってから、月末、月初めは夜10時まで残業しなければならなくなりました。
他の例としては、海外学会などの海外出張に行くために旅程表・出張願等々10ページ近くの書類を毎回準備しなければなりません。これだけの書類を作るマンパワーを全国レベルで見たら、とんでも無い無駄になってきます。
アカデミアに限らず、日本はお金を払う部分に関してうるさい割には、マンパワーに対するコスト意識に欠けていると感じます。コスト意識の欠如で身近にわかりやすい例を挙げるとすると「こども手当」の所得制限でしょう。(実データがないのであくまで憶測ですが)所得の確認の事務手続きを行う事で、おそらく所得制限により削減できる支出分ぐらいの事務量になるのでは無いかと推測しています。
様々な無駄を排除して、経費を節約しようと言うわけです。


2.人材育成
大学院レベルの教育から果ては大学のあり方までかなり広範囲にわたっていますが、大学院レベルでは定員を半減して、個々の大学院生の教育に割く時間を増やす事を挙げています。
あと、特別に取り上げた事としては、「サポートメンバー」の道を拡充する事です。現在の日本の研究者のキャリアパスでは、大学の教官などのポジションを取って生き残れないと、(ちょっとおおげさですが)富士の樹海か?と言う笑えない状況があります。これの人に企業への就職以外の新たなキャリアパスを提示したいと言う願いもありますが、研究をより効率的に進める為にもサポートメンバーの充実は非常に大切になります。
これまた、アカデミアに限らない日本特有の問題ですが、「サポートメンバーが少ない」と言う特徴があります。第2次大戦時代の「補給部隊が少ない」と言う問題そのままです。海外の研究室では「ラボマネージャ」と呼ばれる博士号を持った人が研究室の色々な雑務を仕切ってくれたり、ITサポートスタッフがいて、ネットワークの管理などを彼らが全てやってくれます(日本だと大抵は助教の仕事です)。
また、独法化の予算削減のあおりを受けて大学雇用の「技官さん」が激減してしまっていて、スキルレベルの高いサポートスタッフがほとんどいなくなってしまいました。現在研究室で雇用されている技官さんは月給10−20万程度なのと、雇用に5年の上限があったりするため、高いスキルの人を雇用するのが難しくなっています。高いスキルを持った技官さんと言うのは、研究室への貢献度は下手なポスドクよりも遙かに高い事が多いのでこの様な人材確保の為にもある程度の金額を払うことの出来るような道筋を作って行きたいと言うことです。
他にもテニュアトラックに関する事も盛り込んでいますが、これは良く言われいることなので割愛。


3.アカデミアの外との繋がり
提言の中にはあまり書いていませんが、アカデミアの外と言うのは一般社会への科学コミュニケーションのみならず、政治への働きかけと言うのも自分は非常に重要だと思います。Society for Neuroscienceと言う神経科学の学会では世界最大の学会がアメリカにあって(日本人の神経科学の研究者も大抵その会員になっています)、そこからは送られてくるメールや機関誌にはホワイトハウスへ現在こういう働きかけをしているとか、みんなで政府にメールを送りましょう。と言う内容がしょっちゅう書かれています。
一方、日本の研究者はこれまでロビー活動などをする事を非常に嫌って「清貧のふり」をしておくのが美徳と言うような考え方が強く、皆ロビー活動に批判的であったために、政治への働きかけが非常に乏しく、一部のロビー活動が好きな人の所にばかりお金が流れていました。
また、アウトリーチ活動に力を入れたりしていると、何かと批判される事もあったため、皆消極的であった事もありましたが、インターネットを使った様々なメディアやツールが出来た今はいわゆる「本」を書く以外の方法でももう少し簡単に伝える方法はある訳だから、なんらかのアウトリーチ活動をしていくべきでしょう。


解説なのか、自分の個人的な意見なのかよくわからなくなってきましたが、とりあえず、今回の提言をはじめの一歩とできればと思います。