脳トレの真実

Natureに脳トレで認知機能の改善は見られないという論文が掲載された。


Putting brain training to the test(現時点ではPDFが大学外からも見られます。)


それに関するNature newsの記事
No gain from brain training


読売新聞でも紹介
「脳トレ」効果に疑問…英で1万人実験


とまあ、東北大の川島先生としては非常に厳しい立場だろう。。


でも、冷静に考えてみると、なぜ川島先生は脳トレ・大人のドリル云々を言い出したんだろう?最初は高齢者に簡単な計算やらをやってもらうことにより、高齢者における軽度の認知機能の低下を防ごうという話だったはず(NHKの何かの特集でやっていた)。それがいつのまにやら、ドリルをやると頭が良くなると言う話にすりかわってしまい、ダークサイドに落ち込んでしまった。。


高齢者のデイケアで行われているような「むすんで・ひらいて」を歌う等のプログラムは痴呆が進んでいない人にとってはちょっと馬鹿にされているような印象を持たれてしまうが、「ドリル」は軽度の認知機能低下がある人達への作業療法としては非常に画期的なプログラムだといえる。


要は「意欲的に普段と違うことをする(特に体を動かす)」と言うのが非常に大事なのであって、それが達成出来るのであれば要するになんでも良いと思う。「ドリル」をその観点から見てみると

  • 毎回客観的な点数(秒数)が出るので、次回への意欲を維持しやすい。
  • 点数を周りの人と比較でき、これまた意欲を維持しやすい (競争心も出てくる)

と意欲を維持しやすいシステムになっている。
また、当初のようなどこかに人を集めてドリルをやる方式だと、さらに副次的な効果として

  • ドリルをやるために、必ず外に出てくる
  • 外に出ることにより、いろいろな人と会話をする


と言うことで、非常に画期的なプログラムでこれを全国で実践すれば、医療費の削減に非常に貢献ではないかと言う期待を当時は持ったものだ。


なぜ効果があったか?という点に関しては、個人的には上記のような理由であって、「ドリル」が一義的な答えではないと思っている。科学的な根拠はpoorな話であったが、臨床の場合は論より証拠である場合も多々あって、要するに効果があるのならば根拠は後からついてきても全く構わないだろう。公衆衛生としては、このプログラムの人類?への貢献は、僕らがやってる「くだらない研究」なんかよりもよっぽど大きいと思う。


なのに、それがいつの間にやら、健常成人で頭が良くなると言う話にすりかわってしまったのは何時からなのだろうか?


その辺のいきさつは分からないが、我々のようにヒトの認知神経科学なんかをやっていると、ダークサイドへの転落の誘惑に駆られることが比較的起こりやすいので、その辺はきっちりしていかなあかんなーと思う。